番外編(川島雄三作品) NEW 2020.1.5
『愛のお荷物』 川島雄三監督
1955年 日活
川島雄三監督が松竹から移籍した日活での第一作目が本作である。
現在では「人口減少」が大きな問題となっているが、本作は逆に「人口増加」という社会問題がテーマとなっている。
厚生労働大臣=新木錠三郎(山村聰)は人口増加を食い止める対策を行うが、彼の妻(轟夕紀子)が妊娠してしまい・・・
から始まる社会風刺劇である。日活時代の川島映画に駄作は1本もないが、移籍1本目の本作も傑作だ。
日活時代の川島映画はすべて有料ネット配信の「U-NEXT」で観ることが可能(成瀬映画16本も観られる)。
タイトルバックでは、結婚と出産の数字が加藤武のナレーションでテンポ良く語られる。
映画は、この人口増加問題に関する国会での厚生委員会から始まる。
もちろん撮影所の中のスタジオに作った美術セットだろうが、実によくできている
新木大臣と野党との質疑応答が描かれる(野党代議士役として芦田伸介や菅井きん=前年の『ゴジラ』でも女性代議士役で登場)。
場面は変わり、産婦人科診察室。
医師(三島雅夫)から妊娠の診察を告げられた新木大臣の妻・蘭子(轟夕紀子)は「三番目の子供から20年経つのに・・・」
と何度も確認する。会話から48歳だとわかる。
・蘭子「でも、あたくし、この年になって そんなはずは・・・」
(場面転換)
・幼稚園の滑り台を降りてくる若い女=五大冴子(北原三枝)が「ところが、そうなんですもん。驚いた?」
横にいるのは新木大臣の息子・新木錠太郎。冴子に対して「しかし、赤ん坊ってそんな簡単にできちゃうもんかな」
冴子は新木大臣の秘書だ。
冴子が錠太郎に対して「あなたのお母さんが妊娠したのよ」と伝えているように思うが、
実はそうではなくて冴子自身が錠太郎の子供を妊娠したことを告げている。
観客が普通に考える台詞の意味やストーリー展開を外した台詞つなぎの場面転換が実に洒落ている。
本作の脚本は柳沢類聚と川島雄三。
成瀬映画にもこのような台詞つなぎによる洒落た場面転換は多い。
三橋達也と北原三枝はこの後、幼稚園児に囲まれたブランコに乗って会話を続ける。
この場面のロケーションだが、日活の公式ページにはロケ地が記述されており、そこには台東区(上野公園附近の幼稚園)とある。
画面写真を見ると二人の後方の高台には学校らしき建物が映っている。
ロケ場所はあくまで推定だが、建物は「都立上野高校」の昔の校舎、幼稚園(シナリオには「街の中の小公園」とある)の場所は、
現在の台東区池之端4丁目のあたりではないか。下記グーグル地図の青く囲った場所。
現在は幼稚園(または公園)は無いが、塀に囲まれたグラウンド(上野高校のかもしれない)がある。
現在は建物に遮られて高台方向は見えないが、本作の昭和30年当時は上野高校の建物が真正面に見えたと思われる。
グーグル写真の右側を進み、交番のある交差点を左に曲がると坂があり、坂を登ったところに上野高校がある。
上野公園は広大だが、上野公園附近で画面写真のように見える場所はここしかないように思うのだが・・・